猫の顆粒球性アナプラズマ症は、マダニが媒介する細菌 Anaplasma phagocytophilum による感染症です。ただし、元気がない、食べない、熱があるといった症状だけで家庭から判断できる病気ではありません。
2026年11月1日にオンライン公開された欧州の研究では、獣医師から商業検査機関へ提出された猫702匹の血液検体のうち43匹(6.1%)がPCR陽性でした。問診票を回収できた29匹では、全頭に屋外アクセスがあり、元気消失23匹、食欲低下22匹、39.5℃を超える発熱18匹が報告されています。
この6.1%は、健康な猫を地域から無作為に集めた感染率ではありません。感染が疑われて検査された猫を含む「提出検体の中の割合」です。欧州の病原体、マダニ、飼育環境を、日本のすべての猫へそのまま当てはめることもできません。
結論|マダニ歴と体調変化をセットで獣医師へ伝える
| 確認すること | 家庭で残す情報 | 避けたい判断 |
|---|---|---|
| 屋外・草むらへの接触 | 場所、日付、脱走、旅行、同居動物 | 室内猫なら感染症はゼロと決める |
| マダニの付着 | 発見部位、写真、見つけた時刻 | 素手で潰す、無理に引き抜く |
| 食欲と活動 | 食べた量、隠れる、眠り方 | 暑さや年齢だけのせいにする |
| 体温・全身状態 | 測れた場合の値、呼吸、歯肉色 | 記事の症状だけで病名を決める |
ぐったりして反応が弱い、呼吸が苦しそう、立てない、けいれん、出血、歯肉が白い・青紫、丸一日近く食べられないなどの異常があれば、記事で原因を絞るより動物病院へ連絡してください。診療時間外なら救急対応を確認します。
発表日と出来事の日|原著は11月1日、学会掲載は11月3日
Journal of Feline Medicine and Surgeryの原著は2026年11月1日にオンライン公開され、FelineVMAのPublication Archiveには11月3日付で掲載されました。研究が対象にした検体は2022年1月から2025年12月までに欧州の獣医師から提出されたものです。
「11月3日に欧州で急増した」というニュースではありません。過去4年間の商業検査データを後ろ向きに集計し、検査を依頼した獣医師へ追加質問した研究です。
研究デザイン|702検体を後ろ向きに調べた
| 項目 | 内容 | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 対象 | 欧州の猫702匹のEDTA血検体 | 一般家庭から無作為抽出していない |
| 期間 | 2022年1月〜2025年12月 | 公開日の患者数ではない |
| 検査 | A. phagocytophilum PCR | 症状だけで判定していない |
| PCR陽性 | 43/702匹(6.1%) | 提出検体内の割合 |
| 問診票 | 29/43匹(67.4%) | 14匹は詳しい臨床情報がない |
対象は「病院へ来たすべての猫」でも「欧州で暮らすすべての猫」でもありません。どの症状や検査所見でPCRを依頼したかが地域や病院で異なる可能性があり、検査前の選択が結果に影響します。
43/702匹を一般猫の感染率と呼べない理由
母集団が感染を疑われた提出検体に偏ると、無症状の猫や受診しない猫は入りにくくなります。反対に、別の病気を疑って検査された猫が含まれる可能性もあります。したがって6.1%を「猫の16匹に1匹が感染」と換算するのは不適切です。
地域別の検査数、マダニの分布、屋外アクセス、予防薬の使用、季節、獣医師の検査方針もそろっていません。研究は注意すべき臨床像を整理する材料ですが、家庭猫のリスク計算表ではありません。
追跡29匹の症状|元気消失・食欲低下・発熱が多い
| 報告された所見 | 匹数 | 割合 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 元気消失 | 23/29 | 79.3% | 多くの病気で起こる |
| 食欲低下 | 22/29 | 75.9% | 原因を特定できない |
| 39.5℃超の発熱 | 18/29 | 62.0% | 発熱がない陽性猫もいた |
| 血小板減少 | 14/18 | 77.8% | 併存疾患なしの一部で集計 |
血小板減少、貧血、白血球の変化は血液検査で評価する所見です。見た目だけでは分かりません。また、元気消失や食欲低下は腎臓病、消化器疾患、痛み、ほかの感染症、誤食などでも起こります。「外へ出た+食べない=アナプラズマ症」とは言えません。
29匹全頭に屋外アクセス|発症率ではない
問診票を回収できた29匹は全頭に屋外アクセスがありました。マダニへの曝露を考える重要な手掛かりですが、「外へ出る猫は全頭感染する」「室内猫は検査不要」という意味ではありません。
屋外アクセスの定義、外出時間、地域、予防状況は同じではありません。旅行、脱走、庭、ベランダ、同居犬、人や物への付着など、曝露経路は家庭ごとに異なります。リスクは生活歴を獣医師へ伝えて評価します。
治療結果は良好でも、家庭で薬を選ばない
研究では治療情報が得られた21匹中20匹にドキシサイクリン、1匹にエンロフロキサシンが使われ、19匹は合併症のない経過と報告されました。短期間投与後にPCR再陽性や症状再発があった例も記載されています。
これは欧州の獣医師が診断・検査の上で行った治療です。薬の適否、用量、剤形、投与期間は猫の体重、年齢、併存疾患、日本での承認・流通状況で変わります。人用薬、他の動物の薬、以前の余り薬を与えたり、論文の期間だけをまねたりしないでください。
研究の限界|後ろ向き・商業検査・回答欠損
- 検査を受けた猫だけを含み、健康な一般猫の代表ではない。
- 臨床情報は43匹中29匹分で、14匹は問診票がない。
- 地域や季節ごとの提出数、予防状況、屋外時間を一定にできない。
- 治療を無作為に割り付けた比較試験ではない。
- 欧州のマダニ・病原体・診療環境の結果を日本へ直接一般化できない。
研究の価値は、まれで見逃され得る猫の感染症について、PCR陽性例の臨床像を過去の少数例より広いデータで示した点です。一方、予防薬の優劣や家庭での治療方法を比較した研究ではありません。
日本の猫で分かっていること|別種を含む古い調査
2012年の日本全国47都道府県・猫1,764検体の分子調査では、2検体から Anaplasma bovis に近い遺伝子断片が検出されました。2匹は口内炎がありFIVにも感染していたため、検出と症状の因果関係は不明とされています。
欧州研究の対象は A. phagocytophilum で、日本調査の2例と同じ病原体ではありません。調査年、検査法、対象集団も違うため、43/702と2/1,764を単純比較して日本の方が安全、欧州の方が危険とは言えません。
マダニを見つけたとき|写真と受診先の確認を優先
皮膚に食い付いたマダニらしいものを見つけたら、素手で潰したり、胴体を強くつまんで無理に引き抜いたりせず、まず写真を撮り、動物病院へ連絡して除去方法と受診時期を確認します。油、アルコール、火、家庭用殺虫剤を猫の皮膚へ使わないでください。
| 残す記録 | 具体例 | 診療で役立つ理由 |
|---|---|---|
| 付着部位 | 耳、首、指の間など | 取り残しや皮膚状態の確認 |
| 見つけた日時 | 11月3日朝など | 経過と症状の前後関係 |
| 屋外歴 | 庭、草むら、旅行、脱走 | 曝露地域の手掛かり |
| 体調 | 食事量、活動、嘔吐、歩行 | 緊急度と検査選択の材料 |
受診時に伝えるチェックリスト
- いつから、どの程度食べていないか。普段の何割か。
- 外へ出る範囲、最後に草むらへ入った日、脱走や旅行。
- マダニを見たか、除去したか、写真や現物があるか。
- 現在使っているノミ・マダニ対策の製品名、最終使用日。
- 同居動物の体調、最近の投薬、持病、過去の血液検査。
- 出血、歯肉色、呼吸、歩行、排尿・排便の変化。
スマートフォンの記録は診断を置き換えませんが、変化の開始日を伝える助けになります。記録の考え方は猫の健康記録アプリの記事も参考にしてください。
予防の選び方|商品名より猫と生活歴を先に確認
猫のマダニ対策は、屋外アクセス、地域、年齢、体重、妊娠・授乳、持病、同居動物、ほかの薬で選択が変わります。犬用製品の一部成分は猫に危険なため、犬用を流用しないでください。投与間隔や対象寄生虫も製品ごとに異なります。
Amazonで特定商品を正確かつ安全に一つへ絞るテーマではないため、本記事にはASIN、価格、購入リンクを掲載しません。公式仕様と販売ページだけでは個体への適否を判断できず、獣医師の確認を購入導線に置き換えられないためです。
屋外アクセスを減らすときの注意
完全室内へ切り替える場合も、急に閉じ込めるだけではなく、トイレ、隠れ場所、高所、爪とぎ、遊び、脱走対策を組み直します。進め方は外へ出ていた猫を室内飼いへ切り替える記事で整理しています。
室内化した瞬間に過去の曝露が消えるわけではなく、ノミ・マダニ対策を自己判断で中止する根拠にもなりません。環境変更と寄生虫対策は別々に相談します。
血液検査の数値だけで病名を決めない
欧州研究では血小板減少が多くみられましたが、同じ変化はほかの感染症、免疫疾患、出血、検体中の血小板凝集などでも起こり得ます。貧血についても原因は一つではありません。
一つの所見を病名へ直結させない考え方は猫の貧血と心雑音の研究解説でも紹介しています。症状、身体検査、血液塗抹、PCRなどを獣医師が組み合わせて判断します。
緊急受診を優先するサイン
- 呼吸が苦しそう、口を開けて呼吸する、舌や歯肉が青紫。
- ぐったりして立てない、反応が鈍い、けいれん、意識がおかしい。
- 歯肉が白い、出血が止まらない、黒い便、血尿がある。
- 丸一日近く食べられない、水も取れない、嘔吐を繰り返す。
- 子猫、高齢猫、持病のある猫で急速に状態が悪化する。
これらはアナプラズマ症に限った症状ではありません。病名を検索して待つのではなく、現在の状態と移動手段を動物病院へ伝えてください。
FAQ
猫のアナプラズマ症は日本にもありますか?
日本の猫1,764検体を調べた2012年研究では、欧州研究とは別の A. bovis に近い断片が2検体から検出されました。日本の家庭猫における A. phagocytophilum の現在の発症率を示すデータではありません。
マダニが付いたら必ず感染しますか?
必ず感染するとは言えません。マダニの種、地域、付着状況、病原体保有などで変わります。ただし家庭で見分けきれないため、写真を残して動物病院へ相談します。
食欲がないだけで検査が必要ですか?
食欲低下だけでは病名を絞れません。継続時間、食べた量、元気、発熱、屋外歴、マダニ歴、持病を伝え、必要な検査は獣医師と決めます。
室内猫ならマダニ対策は不要ですか?
一律には言えません。同居動物、脱走、旅行、地域、住環境で曝露は変わります。現在の製品を自己判断で中止せず、生活歴に合わせて確認してください。
論文に出た抗菌薬を使えば治りますか?
自己判断で使わないでください。診断、薬の適否、用量、投与期間、再検査は個体ごとに異なります。人用薬や余り薬の使用は避け、獣医師の処方に従います。
マダニを自分で引き抜いてもよいですか?
無理に引くと口器が残る、体液へ触れる、猫が動いて傷つく可能性があります。写真を撮り、動物病院へ安全な除去方法と受診時期を確認してください。
まとめ|研究結果は診断表ではなく、受診情報を整える材料
2026年の欧州研究では、提出された702検体中43匹がPCR陽性で、追跡29匹では元気消失、食欲低下、発熱、血小板減少が多く報告されました。しかし、一般猫の感染率を測った研究ではなく、日本へ数値を直接当てはめることもできません。
家庭で持ち帰れるのは、屋外・草むら・脱走・旅行とマダニ付着歴を、食欲や活動の変化と一緒に記録することです。症状だけで診断せず、マダニを無理に除去せず、体調不良があれば動物病院へ相談してください。
出典
- Journal of Feline Medicine and Surgery|Feline granulocytic anaplasmosis in Europe
- FelineVMA|Publication Archive(2026年11月3日掲載)
- Ticks and Tick-borne Diseases|Molecular survey of Rickettsia, Ehrlichia, and Anaplasma infection of domestic cats in Japan
- Parasites & Vectors|Granulocytic anaplasmosis in cats from central Europe
- ABCD|Anaplasma, Ehrlichia and Rickettsia species infections in cats
- 日本衛生動物学会|日本の犬と猫におけるマダニの寄生状況調査
- 林野庁 関東森林管理局|マダニ・ヤマビル対策
アイキャッチはAI生成のイメージイラストです。実際の商品・飼育環境の写真ではありません。
